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河野裕『サクラダリセット』 [本‐小説]

評判の良さに惹かれて購入したものの長く積んでしまった本の一つ。やっと読了、なかなか楽しかった。

サクラダリセット  CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)

サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)

  • 作者: 河野 裕
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/05/30
  • メディア: 文庫

やけにナイーブというかセンシティブというか。その意味では自分のようなおっさん向きではないのかもしれない。帯の惹句には作家の乙一が絶賛とでかでかと書かれてあり、作者本人もあとがきで乙一作品にリスペクトを表明している。自分が幾つか目にしたレビューには「乙一が推薦しそうな本だ」と書かれているものもあった。恥ずかしながら自分は乙一作品を読んだことがない(多分)ので比較は不可能だが、第一線で活躍する人気作家にデビュー作をここまで認められるのはきっと良いことなんだろう。

物語の舞台となる咲良田(さくらだ)という街は全ての住人に何かしらの特殊能力がある。中でも効果範囲や影響力が際立っているのが表紙にも描かれた少女(ちなみに彼女は主人公ではない)の「リセット」能力だ。世界を三日分巻き戻せるのだと。彼女以外にもさまざまな能力者が存在するが(何しろ住民すべてだ)、それらの能力は街の中でのみ有効であり他の地域では一般人と変わらない、という設定だ。この「特定地域内で限定的に発動する特殊能力」で連想したのは眉村卓の『ねじれた町』だった。まあ他にもいろいろ類似作品はあるだろうけど。

各人の能力は特定地域内で限定的に発動するという基本設定から、物語の鍵となるリセット能力だけが逸脱している。巻き戻されるのは舞台となる街だけの時間ではないのだから。その理由は特に書かれていないので少々都合のよさを感じないでもない。矛盾というほど大袈裟なものではないが他にも気になる部分はある。おそらく意図的に無視されているそれらは、意地悪な言い方をすれば出し惜しみだ。あとがきには続編の執筆が決まったとも書かれてあるので、シリーズ化を最初から見越していたのかもしれない。

主人公たちは人助けのためにリセットを行う。好ましくない事態を文字どおり「リセット」することで解決を図る。だがそれは無限に有ったはずの可能性を恣意的に捻じ曲げる傲慢で独善的な行為でもある。巻き戻され無かったことにされた三日間は、他の誰かにとって代え難い大切な時間だったかもしれない。このかなりヘビーな問題から逃げていない点は好ましかった(上手くかわされた気もするが)。続編で明らかになる部分も多いはずだし、次が勝負か。


ここからは余談。

ねじれた町 (青い鳥文庫fシリーズ)

ねじれた町 (青い鳥文庫fシリーズ)

  • 作者: 眉村 卓
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/02/15
  • メディア: 新書

感想の中でも触れた眉村卓のジュブナイルSF。中一コースとか中一時代といった学習雑誌に連載されていたらしい。自分の手元にあるのは昭和56年発刊の角川文庫版だが作品自体の掲載はもっと前かも。現在では青い鳥文庫から復刊しているようだ(イラスト担当は緒方剛志なのか)。旧態依然とした町に外部から主人公という異分子が入り込むことによる確執と変化が描かれている(ちょっと大袈裟か)。

破壊魔定光 12 (ヤングジャンプコミックス)

破壊魔定光 12 (ヤングジャンプコミックス)

  • 作者: 中平 正彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2005/12/19
  • メディア: コミック

もう一つは漫画。平行宇宙の存在が重要な鍵となっている。物語の中盤あたりから主人公の定光くんは予知能力を発揮し始める。しかも100%の精度を持つ完璧な予知だ。その完璧な未来予知はあり得たかもしれない無限の可能性、無数の平行宇宙を破壊してしまう。それ故に主人公は「破壊魔」と呼ばれ命を狙われることになる、というお話。未読の方はぜひ。

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アサウラ『ベン・トー - サバの味噌煮290円』 [本‐小説]

やっと読了、自分でも意外なほど時間がかかった。決して読みづらいわけではないんだが。

ベン・トー―サバの味噌煮290円 (集英社スーパーダッシュ文庫)

ベン・トー―サバの味噌煮290円 (集英社スーパーダッシュ文庫)

  • 作者: アサウラ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 文庫

最近4巻目も刊行された人気シリーズ、今回読んだのはその1巻目だ。一応あらすじの一部を以下に。

ビンボー高校生・佐藤洋はある日ふらりと入ったスーパーで、半額になった弁当を見つける。それに手を伸ばした瞬間、彼は嵐のような「何か」に巻き込まれ、気づいた時には床に倒れていた。そこは半額弁当をめぐり熾烈なバトルロワイヤルが繰り広げられる戦場だったのだ!

無駄に大仰で壮大、でも対象が半額弁当の争奪というせせこましさ。このギャップを楽しむホラ話であり、登場人物も含め漫画以上に漫画らしい。いわゆる四大メジャー誌で言えばサンデー系か。次点でジャンプ系。ただしいずれの場合も本誌じゃなく増刊に掲載されるようなやつ。連想したのは『炎の転校生』(を少しマイルドにした感じ)、もしくは高橋留美子の『戦国生徒会』といった短編ギャグか。しかし援用するのが古い作品ばかりというのがおっさんオタクである自分の限界だな。それはさておき。

文体は基本が主人公の一人称、ところどころに三人称というスタイル。読みやすさはあるが、一人称部分で冗長すぎるきらいがあって当初は馴染めなかった。そのせいか途中まで読んだところで放置してしまったからな。引き込まれる上手さもあるんだが持続しない。なんというか、交差点ごとに信号に捕まりギアをトップに入れられないまま目的地に到着してしまったような微妙さが残った。まあこれは自分とは相性が悪かったということでしかなく、気にならない読み手なら一気にラストまで読み進められると思うけど。

登場人物の大半は揃ってわけもなく強い。ただただ理屈ぬきに強い。格闘技で言えば達人、少なくとも師範代クラスのごとく描かれる。それに対して主人公にだけは一応の理屈付けが施されている。単なる一般人だった彼が強敵と互角かそれ以上に渡り合えるのはこういう素地があるからですよ、というエクスキューズ。戦いの中で次第に強くなっていく姿を描写するには、いかにホラ話とは言えども必要なんだろうな。この点が少し興味深かった。シリーズが続くうちに他のキャラクターの背景や恋愛要素も追加されていくのかもしれない。

続刊に手を出すかは微妙なところだが、なかなか楽しめました。

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高畑京一郎『ダブル・キャスト』 [本‐小説]

すっかり気に入ってしまった高畑京一郎の三作目、1999年に単行本で、2000年に文庫でそれぞれ刊行された模様。これで単発で完結しているものは全て読んだことになるが、個人的にはハズレがない作家だ。今回も面白く読めた。

ダブル・キャスト〈上〉 (電撃文庫) ダブル・キャスト〈下〉 (電撃文庫)

ダブル・キャスト〈上〉 (電撃文庫)
ダブル・キャスト〈下〉 (電撃文庫)

川崎涼介は、ビルの屋上から転落し意識を失った。見知らぬ家で目覚め自宅へと向かうが、そこで目にしたものは、自分の葬式だった。
浦和涼介は、帰宅途中に見知らぬ若者の転落事故に遭遇する。惨事に直面し気を失う涼介。不可解な記憶喪失の、それが始まりであった。
川崎亜季は、まるで亡き兄のように振る舞う見知らぬ少年に困惑していた。だが彼女は知ることになる。自分に迫る危機と、自分を守ろうとする心を……。

内容は上に引用したあらすじだけでなくタイトルからも推察できると思うが詳述は避けときます。主人公に関する秘密がストーリー上の肝であり、同時に各所でサスペンスを生み出す装置としても機能している。これはネタバレ気味かもしれないが、他にも一点、ミスディレクションというかぶっちゃけ叙述トリックが仕掛けてあったり、なかなか楽しい。それも含め『タイム・リープ』でも見せた抜群の構成力は本作でも発揮されていた。

主人公の身に起こる現象に関しての説明は、まあ都合よくスルーされる。それが悪いと言いたい訳じゃなく、『タイム・リープ』の感想でも書いたが「リーズン・シンドローム(©伊藤計劃)」の人には看過できない瑕疵と映るかもしれない。登場人物に関してはどちらかといえば漫画のキャラクター的で、読み手によって評価は分かれそうだ。自分は好きでしたけど。あと恋愛的な要素は希薄で(他の著作も同様だが)、そういった部分に身悶えしつつニヤリングしたい人には物足りないか。

この作者は文章がとても読みやすい。うまく言えないが「過不足のない文章」だと思う。過剰な装飾も回りくどさもなく、さりとて言葉足らずで分かりづらいということもない。物語るためには絶妙なバランスだと思う。ただ若い読者が対象であるライトノベル作家として見た場合は判断が難しい。一般文芸に場を移した方が合っているんじゃないかなーと。新作が長く出ていないらしいので判断のしようがないけどね。

手に取った著作全てが楽しく読めたので満足だ。残るは未完のままとなっている『ハイパー・ハイブリッド・オーガニゼーション』だけか。どうするかな。しかし電撃小説大賞の審査委員やるくらいなら新作書けよ、と思うファンも多いだろうに。もったいない話だ。

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高畑京一郎『クリス・クロス―混沌の魔王』 [本‐小説]

作者のデビュー作、第一回電撃ゲーム小説大賞の金賞受賞作であるらしい。『タイム・リープ』が面白かったので他の著作も読みたくなって。しかし残念ながら現在では新刊での入手が困難で(というか絶版なんだろう)、自分も中古書店で文庫版を購入した。当初は単行本で出版されたようだが、文庫化に際し加筆・修正等が行われたかは不明。これも面白く読めた。

クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫 (0152))

クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫 (0152))

  • 作者: 高畑 京一郎
  • 出版社/メーカー: メディアワークス
  • 発売日: 1997/02
  • メディア: 文庫

一応、以下は文庫版のあらすじ。

MDB9000。コードネーム“ギガント”。日本が総力を結集して造り上げたスーパーコンピューターである。世界最高の機能を誇るこの巨大電子頭脳は、256人の同時プレイが可能な仮想現実型RPG「ダンジョントライアル」に投入された。
その一般試写で現実さながらの仮想世界を堪能する参加者たち。しかし、彼らを待っていたのは華やかなエンディングではなく、身も凍るような恐怖だった……。

バーチャルリアリティを用いた最新の体感ゲームというアイディア自体は、刊行当時としても決して斬新ではないし(岡嶋二人の『クラインの壺』という先例もある)、なにしろ10年以上前の作品なので若干の古さは否めない。じゃあ読むに耐えないほど鮮度が落ちているかといえばそんなことはなくて。最後まで一気に読ませる面白さがあり、デビュー作ということを考えてもこの作者は相当に上手いんだと思う。作中に登場し舞台となるゲーム「ダンジョントライアル」は、その名のとおりダンジョン探索型のRPGだ。『ウィザードリィ』をイメージすればたぶん間違いない。他に読んでいて連想したのは篠房六郎の『空談師』(短編の方)だった。『リネージュ』や『FF11』のようなMMORPGが普及した現在なら、もう少し違った物語になっていたのかもしれない。その場合スケールが大きくなりすぎて一冊じゃ収まらないだろうけど。

一点だけ残念なことが。あくまで個人的な理由だけれど。ライトノベルにはつきものである表紙や挿絵のイラストが自分の好みに合わなかったことだ。数は多くないし頭の中で差し替えもできる(カバーは外せば良いし)。だが自分のイメージで読み進めていると、唐突に目に入ってきて集中が一瞬途切れてしまった。絵に対する好みの問題なので小説自体に罪はないが、視覚情報って大きいよなあとあらためて思った。ライトノベルにいわゆる「ジャケ買い」が成立しやすい理由が分かった気がする。まあイラストだけ良くて中身がハズレというケースもあるけれど。

クライマックスに一つ仕掛けが施してあって面白かった。突き放したようなラストも良かったし。楽しめました。

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高畑京一郎『タイム・リープ―あしたはきのう』 [本‐小説]

この小説、恥ずかしながら最近まで存在を知らなかったのだ。今回手にしたのは文庫版だが、最初は1995年に単行本として出版されていたそうだ(文庫の奥付には1997年初版発行と記されている)。15年近く前の作品なのか。実写映画化もされたようだがこちらも未見。その時期、妙にアンテナが低くなっていたんだろうな俺。

タイム・リープ―あしたはきのう (上) (電撃文庫 (0146)) タイム・リープ―あしたはきのう (下) (電撃文庫 (0147))

タイム・リープ―あしたはきのう (上) (電撃文庫 (0146))
タイム・リープ―あしたはきのう (下) (電撃文庫 (0147))

タイトルどおりと言おうか、いわゆる時間SFと呼ばれるジャンル。ああでもなあ、いわゆるタイム・トラベルではないので時間SFよりもループものと言った方が適切か。この作品の肝でもあるしネタばれになってもまずいので詳述は避けますが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』よりも『バタフライ・エフェクト』に近いです(観てない人にはさっぱりだな)。一応あらすじを引用しときます。

鹿島翔香。高校2年の平凡な少女。ある日、彼女は昨日の記憶を喪失していることに気づく。そして、彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えの無い文章があった。“あなたは今、混乱している。若松くんに相談しなさい……”
若松和彦。校内でもトップクラスの秀才。半信半疑ながらも、彼は翔香の記憶を分析する。そして、彼が導き出したのは、謎めいた時間移動現象であった。“タイム・リープ―今の君は、意識と体が一致した時間の流れの中にいない……”

帯の惹句には「ライトノベルの概念を飛躍(リープ)させた不朽の名作」と記されている。でも個人的にはライトノベルというよりジュブナイルSFと呼びたい気分だ。それはやはり全体から漂うある種の「古さ」にあるのか(10年以上前の作品だものな)。主に人物像に顕著で、特にヒロインに手助けをするクラスメイトの少年、若松和彦がね。見た目も悪くなく頭脳明晰、何事にも動じずニヤリとクールに笑ったりしちゃうのだ。何だこの完璧超人。さらに後半のキーキャラクターでもある彼の親友とか。最近じゃこんな男性キャラって出さないよなーと。対照的に時代ごとの流行や風俗に関しては上手く排しているので普遍性を獲得できている。現在この作品を書くとしたら携帯電話(当時ならポケベルか)は出さないわけにいかないだろう。高校生が持っていないのは逆に不自然だし。その辺りは面白いというか難しいよなあ。

これは蛇足ではあるが、ヒロインが時間移動をする「原因」については物語に絡めて説明されるし特に矛盾はない。だが根本的な「理由」については触れられない。うーん、どう言えばいいか。例えばドラクエのようなファンタジーRPGで魔法を習得するには経験値を稼ぎレベルを上げればいい。だが何故レベルを上げたら魔法を覚えるかは説明されない。だってそういうものだから。その辺が気になって仕方がないという「リーズン・シンドローム(©伊藤計劃)」の人は不満が残るかもしれない。そんな瑣末なことは気にしない方が身のためです。

上下巻の二分冊だがボリュームとしてはさほど多くない。むしろ少ない方だし、ただでさえ複雑になりがちな展開をこのページ数で破綻なく見事に纏め上げているのは凄い。月並みな表現だが精緻なパズルのピースがきっちりはまっていくようでぞくぞくする。大変面白い本でした。もっと早く読んでおくべきだった。

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有川浩『空の中』 [本‐小説]

読みやすかったというのもあるけど、500頁近いボリュームがあるのに一気に最後まで読み切ってしまった。自分は『図書館戦争』よりも好きかな。

空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/06/25
  • メディア: 文庫

YS11以来となる純国産の民間航空機開発計画が発足する。高高度を超音速で巡航する輸送機としての運用を企図し開発も順調だったが、試験飛行中に原因不明の爆発事故を起こす。その一ヶ月後、同じ空域で訓練飛行中だった航空自衛隊のF15Jがやはり同様の爆発事故を起こす。原因究明が遅々として進まない中、人類は想像もしなかった形で高度な知性を持つ生命体との接触を果たすことになるが・・・。 というのがあらすじ。

内容としてはファーストコンタクト物になるんだろうが、ハードSFよりも多分にアニメ・漫画的なテイストが強い。あとがきで作者が明かしているが着想は『天空の城ラピュタ』を観た際にこういう冒険活劇がやりたいと思ったのがきっかけだったらしい。それに昔から好きだった怪獣ものが混ざり合い微妙に方向性が横滑りした結果とのこと。さもありなん。

当初はいわゆるライトノベルを数多く出版している「電撃」レーベルのハードカバーとして出版されたものなので、この本も一応はライトノベルに含めていいんだろう。自分はあまりラノベを読まない方で(単に読まず嫌いなんだけど)、いくつか手を出してはいるものの少々苦手意識がある。しかしこのレベルまで達している作品も多く存在するなら今後は考えを改めないとな。

個人的に少々きついなぁ、と感じた点が一つ。登場人物の描写というかキャラ設定なんだが。発端となる事故を起こした航空機の開発(の末端)に関わり事故調査委員として派遣される技術者と、同じく事故を起こしたF15Jの僚機パイロットであり事故を目撃した唯一の生存者である空自三尉、大人側の主人公と言っていいこの二人だけが妙に浮いてる。いや十分魅力的に描けている方なんだが「いかにもアニメ・漫画のキャラ」って感じなのだ。

他の登場人物や状況などがぎりぎりの線で踏みとどまっているのに対して、この二人だけは妙に軽々とその線を踏み越える。何というか実写映画の中でそこだけアニメ絵が動いているくらいの違和感を感じた。そこが残念(単に好みの問題かもしれないが)。姉妹篇とも言える『海の底』(海自が舞台らしい)や『図書館戦争』もそうだが、この作者って自衛隊に思い入れがあるのかね。あくまで怪獣映画好きとしてなんだろうけど。

最初にも書いたがラストまで途切れることなく楽しめた。おすすめです。

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辻村深月『子どもたちは夜と遊ぶ』上・下巻 [本‐小説]

デビュー作だった『冷たい校舎の時は止まる』を読んで、内容にはいささか面食らったし物語のオチの付け方には納得のいかない面もあったが、ラストまで一気に読ませる筆力には素直に感心させられた。それもあって不安と期待が混ざってはいたが手に取った。結果、本作も最後まで途切れることなく読了できた。

子どもたちは夜と遊ぶ 上 (1) (講談社文庫 つ 28-3) 子どもたちは夜と遊ぶ 下 (3) (講談社文庫 つ 28-4)

子どもたちは夜と遊ぶ 上 (1) (講談社文庫 つ 28-3)
子どもたちは夜と遊ぶ 下 (3) (講談社文庫 つ 28-4)

大学受験間近の高校三年生が行方不明になった。家出か事件か。世間が騒ぐ中、木村浅葱だけはその真相を知っていた。「『 i 』はとてもうまくやった。さあ、次は、俺の番――」。
姿の見えない『 i 』に会うために、ゲームを始める浅葱。孤独の闇に支配された子どもたちが招く事件は、さらなる悲劇を呼んでいく。

本作も含め自分が読んだ2作品はどちらもミステリの体裁となっている。だが謎解きや犯人探しといったミステリに期待される趣向は重要視されていない。もちろん、だからといって蔑ろにしているわけではなく、物語を牽引する一要素として十分に機能している。前作では高校生を、本作では大学生を主要登場人物に設定していることでも明らかだが、ミステリ仕立ての青春小説というのが適当だろうか。彼らがそれぞれの理由から苦悩し、時には他人を、時には自身すらも傷つけ足掻く様をかなりの分量を割いて描写する。ある者は救われ、一方では諦観したりと決着の付け方はさまざまだが、全員が真摯に、愚直なまでに問題に正対する。こう書くとありきたりだけれど、周囲との関係も含め人の心のありようこそがミステリだ、というところか。

前作は群像劇としての要素が強く明確な主人公はむしろ存在しなかった。対して本作では主人公と呼べる人物は存在する。自分は2作品とも登場人物、とくに主人公格のキャラクターに対し最後まで共感も好意も抱けずに終わった。彼らの苦悩が詳細に描写されればされるほど「なんだかなー」と感じる瞬間が多発した。いや当然といえばそのとおりで、言動の全てに共感できる相手なんかいない。距離の置き方が異なるだけで他者はあくまで他者であり続ける。どんなに近しい間柄でさえも。そのことは作品のテーマでもあるはずだし狙いどおりなんだろう。多分。

細かく書くとネタばれになるので難しいが、前作では物語の基本設定が突飛で、ミステリというよりSFかファンタジーに近かった。その点を挙げて否定することは可能だし自分も首をかしげる側ではある。その部分において本作にはそこまでの突飛さはない、ように見える。しかし主人公の生い立ちが前作の舞台設定と同様、ある種のファンタジーだ。その類の話(特に事件報道等で)は耳にするし実際に参考にした事例もおそらくあるだろう。だが相当にデフォルメされてグロテスクでさえある。むしろホラーの範疇と見てもいい。読み手がそれをどう受け取るか。反応は分かれるんじゃないかと思う。

基本的に作者の視点は優しいのか、ほとんどの登場人物には救済の手が差し伸べられる。本作のラストも後味良くまとめられ、爽やかですらある。そこに自分は納得がいかない。いたたまれなさを感じてしまう。その人物を救済していいのか、こんな美しい幕切れを用意してやる必要は無いんじゃないの、と。おそらくこういった反応も十分に織り込み済みだとは思うが、なまじ綺麗なオチが付いて見えるのが気になった。

読み手をぐいと引き付け最後まで放さない筆力はやはりすごい。他の著作もいずれ手に取ると思う。レビュー的な評価をすれば、下巻の途中まで星4つ、オチが自分と合わず全体では星3つ、かな。

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支倉凍砂『狼と香辛料』 [本‐小説]

7月からアニメの第二期が始まると聞いたので再読。といっても手元には第1巻しかないが。しかも評判が良かったので購入したものの長いこと積んだままだった本。約一年前に某SNSに書いた感想をちょっと手直しして今さら転載。

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

  • 作者: 支倉 凍砂
  • 出版社/メーカー: メディアワークス
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 文庫

読みやすいなーというのが率直な感想、もう少しくせがあるかと思っていた。この小説はファンタジーに分類されるものだ。内燃機関などの文明は未だ無く、強い権力を持つ教会による布教が進んでいるとはいえ、かろうじて人々は古くからの土着の神を信じ敬っている、そんな世界。主人公をそこに生きる行商人としたのが目新しく感じた。自分が目にしていないだけで先例は有るのかもしれないが。

主人公の行商人ロレンスは腕っ節が強くもなく、特殊能力があるわけでもない。経験と少しばかりの自負を支えに交渉術で渡り歩く。人智を越えた超能力やら魔法やらで事態を解決しない、というか出来ない。その点が好ましく感じた。ファンタジーらしい部分はホロが一手に担う形になっている。

不満点もあるにはある。行商人としての駆け引きとか交渉術をもっとクライマックスの展開で生かして欲しかった。互いに裏の裏を読むようなスリリングな展開を期待したが、相手が腕力で押してきちゃった感じだったからな。直接ではないが一応、交渉による解決を図りはしたが、正直なところ都合良すぎねーかその展開、と思えちゃったし。作品が違うよといわれれば否定しないけど。

この小説のポイントは、実はそんなところには無い。気に入るかどうかはただ一点、賢狼ホロ、彼女に魅力を感じるか否か。そこだけだ。自分は駄目でした。

十分魅力的に書かれているとは思う。実際、多くの読者を魅了している人気キャラクターなんだから。でもなあ、やっぱり自分には駄目だ。ロレンスが驚くほどあっさりと彼女に惹かれたことがピンとこないし。個人的な好みの問題だとは思うんだが。昔からオタクに愛されてきた、いわゆる「ネコ耳キャラ」に対して全く魅力を感じないんだ俺。逆に何がそんなに良いの?と聞きたいぐらいそっち方面に不感症なので。ホロには大変申し訳ない、彼女に罪は無い。そんな訳で本作は楽しめた。でも続刊に手は出さないと思う。

・・・そして今に至るも続刊には手を出さずじまいだったりする。

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米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』上・下巻 [本‐小説]

小市民シリーズ待望の新作、やっと読了。上下巻とはいえ読みやすいしページ数もさほど多くないんだが、前作『夏期限定トロピカルパフェ事件』から間隔が空いたのでいっそのこと、とシリーズ全部を最初から読み返してしまったので。

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫) 秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)
秋期限定栗きんとん事件〈下〉 (創元推理文庫)

前作でコンビを解消してしまった主人公たち。その後が大変気になるところだったが、あらそうなるの、というちょっとびっくりな展開を見せる。そんな中、舞台となる町で小規模な連続放火事件が発生するんだが、ここまでのシリーズを全て読んでいる人なら今回の謎解き部分は割と予想がしやすい。その意味ではミステリー色は薄目かもしれない。新たな、そして重要な役どころの人物が二人登場する。その内の一人がですね、何というかとても不憫でなあ。ここからはもしかするとネタばれになってるかも、念のため。

主人公である小鳩くんと小山内さんは過去の失敗から「小市民」であろうとする。要するに小説や漫画、アニメやゲーム等のキャラクター紹介で使われるお決まりの表現、「どこにでもいる」「平凡で」「普通の」少年(あるいは少女)、というもの。彼らが目指しているのは正にこれ。だけどそんなの端から無理じゃんね、と(こう言っちゃ身も蓋もないが)。主人公コンビは、言うなればホームズとモリアーティがタッグを組んだようなもんで、そんじょそこらの奴じゃ太刀打ち出来ないし代わりが務まるわけもない。最強(凶)なんだからさ。無駄な努力をするあたりが可愛らしくもあるが、側杖を食わされる方はたまったもんじゃないよね。

先にも書いたが作中のある登場人物、今回の重要なキャラクターがあまりにも不憫なんだよ。もっと言えば読んでいて身につまされへこんでしまうほど。反対に前作のラストや本作の中盤辺りまでの展開にやきもきしていた人は、主人公二人の選択を「よしよし」と喜べてしまうだろうし。主人公側の視点でなら嬉しい展開なんだが、一歩引いてみると結構きつい。この作者が上手いのは、真相が明らかになる直前まで、読者が不憫な登場人物を好ましく思えないように描いていることだ。お前のような勘違い野郎はその生意気な鼻っ柱をへし折られればいい、くらいに。でもそこで「ああ、俺のことじゃん」と気付かされる。苦労しなくたって小市民の座は指定席で、不憫な登場人物と同じような失敗は何度も経験してきた昔の自分(若い読者なら正に現在の自分)を思い浮かべて。いやー本当に意地悪だよなあこの作者。それだけに読後感はとても微妙。いや十分楽しめるんだけどね。続編の『冬期限定』が早く読みたいなーと思うし。

未読の方はぜひ。この機会にシリーズ全巻そろえてみたり。ああ、でもとっつきやすいのは「古典部シリーズ」の方かもしれない。

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タタツシンイチ『九十九81悪剣傳 殉死も悪いもんじゃねぇ』 [本‐小説]

タタツシンイチの新作、書き下ろし作品とのこと。前作『マーダー・アイアン 絶対鋼鉄』が気に入ったし(ちなみに感想はこんな感じ)、次にどんな作品を出してくるか興味もあったので。

九十九81悪剣傳―殉死も悪いもんじゃねぇ (トクマ・ノベルズEdge)

九十九81悪剣傳―殉死も悪いもんじゃねぇ (トクマ・ノベルズEdge)

  • 作者: タタツ シンイチ
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2008/12
  • メディア: 新書

徳間書店公式サイトの内容紹介にもあるが時代劇と中世ファンタジーがごちゃ混ぜになったような世界が舞台だ。ジャンルとしては隠密物の範疇に含まれる...のかな。公式サイトのあらすじと微妙に違うがカバー裏のものを引用しておく(公式サイトの方は微妙にネタばれっぽい気が...)。

ここは龍に似た形の列島。ちょうど龍の前脚辺りに巨大な首都・イド国が拡がる。そのイド国の奉行エイダの命令で、貧乏御家人の81(やそいち)と仮面の農夫メロスは、年貢が高いことで知られるアーロン国に出向く。アーロン国貴族は皆優雅に暮らせるが、民には生きていくのが困難な国だ。そんな国の王は病床に臥していた。その愚かな王に、一通の便箋を突きつけるという使命を負う81とメロスだが・・・・・・。クレイジーでパンクな侍、九十九81(つくもやそいち)ここに見参!!

何よりも主人公が破格で相当にぶっ飛んだキャラクターだ。剣の腕前はでたらめに強く、性格は傍若無人、傲岸不遜、唯我独尊とおよそ万人に好かれるタイプではない。それでいて愚鈍な筋肉バカというわけでもないのだ(下された命令の裏にある権謀術数を察する聡さもある)。この漫画的主人公に魅力を感じられるかは結構なウェイトを占め、その意味ではキャラクター小説なのかもしれない。クライマックスのちゃんばらとも呼べない一方的なシーンはスプラッタ風味満載で結構エグいが、時代劇の見せ場も冷静に考えたら凄惨な絵面だものな。ボリューム的にはせいぜい一日あれば十分だし読みづらさはなくサクサク読めた。

前作『マーダー・アイアン 絶対鋼鉄』もそうだったが、作者は日本論(と書くと大仰だが)を作家としてのテーマに掲げているふしがある。本作でも江戸時代を模したイド国の中に中世ヨーロッパを模したアーロン国という異文化が互いに溶け合うことなく混在する、という特異な状況設定を用いて「日本的なもの」と「西洋的なもの」を対照させる。とはいえ単純な優劣どうこうではなく、むしろ日本に「こうあって欲しい」という願いのようなものか。爛熟の果てに放蕩の限りを尽くし国としての体すら失うほど乱れきった貴族社会の描写に、バブル期以降の日本を重ねて見てしまったのは我ながら的外れすぎかな。主人公が「虐殺81」という二つ名に違わぬ本領を発揮し全てを根こそぎなぎ払っていく様は確かにパンクだった。

以下蛇足で。トクマ・ノベルズEdgeに関しては初耳だった。他にも徳間デュアル文庫というのもあるらしい。エッジdeデュアル王立図書館という公式サイトのラインナップを見る限りいわゆるライトノベル専門の新レーベルなのか。

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