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高畑京一郎『タイム・リープ―あしたはきのう』 [本‐小説]

この小説、恥ずかしながら最近まで存在を知らなかったのだ。今回手にしたのは文庫版だが、最初は1995年に単行本として出版されていたそうだ(文庫の奥付には1997年初版発行と記されている)。15年近く前の作品なのか。実写映画化もされたようだがこちらも未見。その時期、妙にアンテナが低くなっていたんだろうな俺。

タイム・リープ―あしたはきのう (上) (電撃文庫 (0146)) タイム・リープ―あしたはきのう (下) (電撃文庫 (0147))

タイム・リープ―あしたはきのう (上) (電撃文庫 (0146))
タイム・リープ―あしたはきのう (下) (電撃文庫 (0147))

タイトルどおりと言おうか、いわゆる時間SFと呼ばれるジャンル。ああでもなあ、いわゆるタイム・トラベルではないので時間SFよりもループものと言った方が適切か。この作品の肝でもあるしネタばれになってもまずいので詳述は避けますが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』よりも『バタフライ・エフェクト』に近いです(観てない人にはさっぱりだな)。一応あらすじを引用しときます。

鹿島翔香。高校2年の平凡な少女。ある日、彼女は昨日の記憶を喪失していることに気づく。そして、彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えの無い文章があった。“あなたは今、混乱している。若松くんに相談しなさい……”
若松和彦。校内でもトップクラスの秀才。半信半疑ながらも、彼は翔香の記憶を分析する。そして、彼が導き出したのは、謎めいた時間移動現象であった。“タイム・リープ―今の君は、意識と体が一致した時間の流れの中にいない……”

帯の惹句には「ライトノベルの概念を飛躍(リープ)させた不朽の名作」と記されている。でも個人的にはライトノベルというよりジュブナイルSFと呼びたい気分だ。それはやはり全体から漂うある種の「古さ」にあるのか(10年以上前の作品だものな)。主に人物像に顕著で、特にヒロインに手助けをするクラスメイトの少年、若松和彦がね。見た目も悪くなく頭脳明晰、何事にも動じずニヤリとクールに笑ったりしちゃうのだ。何だこの完璧超人。さらに後半のキーキャラクターでもある彼の親友とか。最近じゃこんな男性キャラって出さないよなーと。対照的に時代ごとの流行や風俗に関しては上手く排しているので普遍性を獲得できている。現在この作品を書くとしたら携帯電話(当時ならポケベルか)は出さないわけにいかないだろう。高校生が持っていないのは逆に不自然だし。その辺りは面白いというか難しいよなあ。

これは蛇足ではあるが、ヒロインが時間移動をする「原因」については物語に絡めて説明されるし特に矛盾はない。だが根本的な「理由」については触れられない。うーん、どう言えばいいか。例えばドラクエのようなファンタジーRPGで魔法を習得するには経験値を稼ぎレベルを上げればいい。だが何故レベルを上げたら魔法を覚えるかは説明されない。だってそういうものだから。その辺が気になって仕方がないという「リーズン・シンドローム(©伊藤計劃)」の人は不満が残るかもしれない。そんな瑣末なことは気にしない方が身のためです。

上下巻の二分冊だがボリュームとしてはさほど多くない。むしろ少ない方だし、ただでさえ複雑になりがちな展開をこのページ数で破綻なく見事に纏め上げているのは凄い。月並みな表現だが精緻なパズルのピースがきっちりはまっていくようでぞくぞくする。大変面白い本でした。もっと早く読んでおくべきだった。

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takao

懐かしい思い出記事を読ませていただきました。これが発売された当時(単行本)私は○学生で、近所の本屋をかけずり回って買った記憶があります。で、面白かったですよね。実写DVDも持っていますよ。主演が佐藤藍子で、心配だったモノのそれなりに面白かった記憶があります。

これを読んで、メディアワークスに入ろうかな、と試験を受けた社員もいるらしく、電撃文庫の中では、名作に入ると思います。一応、まだ絶版にはなっていないらしいですし(ネットで見た情報なので、不確かですが)

この作者の本、どれも面白いんですが、いかんせん、秋山瑞人と並ぶ遅筆家なのが大問題。専業作家になってからもう3年くらい?、1冊も本を出版していないのが凄いと思っています。

今でも読んでもらえて、面白いと思ってもらえるなんて、『タイム・リープ』ファンとして嬉しく思います。
by takao (2009-06-29 20:13) 

chokusin

takaoさん、nice!とコメントをありがとうございます。

これを今まで知らなかったことが悔やまれるくらい楽しめました。自分も新刊として購入しましたから、電撃文庫もこの作品の価値をちゃんと認識しているんでしょう。
映画にも興味が出てきましたのでレンタル店ででも探してみようと思ってます。

実はこの作者の他の著作も読みたくなり入手済みです(こちらは絶版なのか見当たらず、中古書店での購入でしたが)。新作、もう書かないんでしょうかね。もったいない話だと思います。
by chokusin (2009-06-29 21:59) 

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