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高畑京一郎『クリス・クロス―混沌の魔王』 [本‐小説]

作者のデビュー作、第一回電撃ゲーム小説大賞の金賞受賞作であるらしい。『タイム・リープ』が面白かったので他の著作も読みたくなって。しかし残念ながら現在では新刊での入手が困難で(というか絶版なんだろう)、自分も中古書店で文庫版を購入した。当初は単行本で出版されたようだが、文庫化に際し加筆・修正等が行われたかは不明。これも面白く読めた。

クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫 (0152))

クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫 (0152))

  • 作者: 高畑 京一郎
  • 出版社/メーカー: メディアワークス
  • 発売日: 1997/02
  • メディア: 文庫

一応、以下は文庫版のあらすじ。

MDB9000。コードネーム“ギガント”。日本が総力を結集して造り上げたスーパーコンピューターである。世界最高の機能を誇るこの巨大電子頭脳は、256人の同時プレイが可能な仮想現実型RPG「ダンジョントライアル」に投入された。
その一般試写で現実さながらの仮想世界を堪能する参加者たち。しかし、彼らを待っていたのは華やかなエンディングではなく、身も凍るような恐怖だった……。

バーチャルリアリティを用いた最新の体感ゲームというアイディア自体は、刊行当時としても決して斬新ではないし(岡嶋二人の『クラインの壺』という先例もある)、なにしろ10年以上前の作品なので若干の古さは否めない。じゃあ読むに耐えないほど鮮度が落ちているかといえばそんなことはなくて。最後まで一気に読ませる面白さがあり、デビュー作ということを考えてもこの作者は相当に上手いんだと思う。作中に登場し舞台となるゲーム「ダンジョントライアル」は、その名のとおりダンジョン探索型のRPGだ。『ウィザードリィ』をイメージすればたぶん間違いない。他に読んでいて連想したのは篠房六郎の『空談師』(短編の方)だった。『リネージュ』や『FF11』のようなMMORPGが普及した現在なら、もう少し違った物語になっていたのかもしれない。その場合スケールが大きくなりすぎて一冊じゃ収まらないだろうけど。

一点だけ残念なことが。あくまで個人的な理由だけれど。ライトノベルにはつきものである表紙や挿絵のイラストが自分の好みに合わなかったことだ。数は多くないし頭の中で差し替えもできる(カバーは外せば良いし)。だが自分のイメージで読み進めていると、唐突に目に入ってきて集中が一瞬途切れてしまった。絵に対する好みの問題なので小説自体に罪はないが、視覚情報って大きいよなあとあらためて思った。ライトノベルにいわゆる「ジャケ買い」が成立しやすい理由が分かった気がする。まあイラストだけ良くて中身がハズレというケースもあるけれど。

クライマックスに一つ仕掛けが施してあって面白かった。突き放したようなラストも良かったし。楽しめました。

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takao

chokusinさんの記事を読んで、自分が文庫本買って読んでいないことに気付きました。なぜなら、ハードカバー版には、挿絵がなかったんですよね。表紙もだいぶん違いますし。絵師さんは嫌いな人ではないですが、イメージと違うと確かに、集中が途切れるかもです。

この小説、投稿されたときのタイトルは「夢か現か幻か」だったんですよね。こういうどうでもいいことは、15年経った今でも覚えているのですが。

第1回電撃ゲーム小説金賞受賞でしたが、一番面白かったのはこれでしたね。その証拠か知りませんが、大賞取った土門弘幸さん、どっかに消えちゃいましたから。

最後の方に向け、結構ハードな展開だったのが印象に残っています。もう、「こいつは助かってくれ」と思うキャラでもあれでしたし。最後のあれも、かなり印象に残っています。本当、これも名作だと思います。

で、chokusinさんの記事とは関係ありませんが、電撃ゲーム小説大賞金賞同時受賞だった中里融司さんがなくなっていたことに驚きました。確か、デビュー当時40歳くらいの方だったと思いますが、まだ50代半ば?この人の作品は会わなかったのですが、なんか寂しいモノを感じました。すみません、関係ない話になってしまって。

と言うことは、次は『ダブルキャスト』ですか?あれもなかなか良かった気がします。1回しか読んでいないのですが。『ハイパーハイブリッドオーガニゼーション』は未完なので、ご注意を。この作者、これをほっぽり出しているんです。

メディアワークスの社長は、高畑京一郞作品好きだったらしいので(とは言いつつ、対象層にあってないと言っていたらしいですが)書けば出版されないことは無いと思います。だから、この作者が書く気がないのかも知れませんね。3年くらい新作でていないのは。
by takao (2009-06-30 21:59) 

chokusin

takaoさん、nice!とコメントをありがとうございます。

>次は『ダブルキャスト』ですか?
ご明察、読んでいる真っ最中です。これもまた面白くて。
ハードカバー版には挿絵がなかったんですね。個人的にはそちらの方がありがたい気もします。イラスト等の絵柄にはその時々のトレンドというか流行がありますから難しいですね。

中里融司という作家さんは知りませんでしたが、デビュー当時40歳くらいというのはラノベ畑では珍しいんでしょうかね。
http://ark-ise.net/es8.html
上のリンク先では“ライトノベルは通常20代から受賞させますから、よほど不作の年を除いては、30歳以上の人は上手くても除外”とあって、一般の会社でいうところの「新入社員の採用試験」的側面があるのだと。

「ハイパー・ハイブリッド・オーガニゼーション」はどうしようか迷っていたんですが、作者がほっぽり出しているんですか、うーん。しかし高畑京一郎氏は小説を書く意欲が失せてしまったんでしょうかね、ほんとにもったいないなと思います。
by chokusin (2009-06-30 22:50) 

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