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米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』上・下巻 [本‐小説]

小市民シリーズ待望の新作、やっと読了。上下巻とはいえ読みやすいしページ数もさほど多くないんだが、前作『夏期限定トロピカルパフェ事件』から間隔が空いたのでいっそのこと、とシリーズ全部を最初から読み返してしまったので。

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫) 秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)
秋期限定栗きんとん事件〈下〉 (創元推理文庫)

前作でコンビを解消してしまった主人公たち。その後が大変気になるところだったが、あらそうなるの、というちょっとびっくりな展開を見せる。そんな中、舞台となる町で小規模な連続放火事件が発生するんだが、ここまでのシリーズを全て読んでいる人なら今回の謎解き部分は割と予想がしやすい。その意味ではミステリー色は薄目かもしれない。新たな、そして重要な役どころの人物が二人登場する。その内の一人がですね、何というかとても不憫でなあ。ここからはもしかするとネタばれになってるかも、念のため。

主人公である小鳩くんと小山内さんは過去の失敗から「小市民」であろうとする。要するに小説や漫画、アニメやゲーム等のキャラクター紹介で使われるお決まりの表現、「どこにでもいる」「平凡で」「普通の」少年(あるいは少女)、というもの。彼らが目指しているのは正にこれ。だけどそんなの端から無理じゃんね、と(こう言っちゃ身も蓋もないが)。主人公コンビは、言うなればホームズとモリアーティがタッグを組んだようなもんで、そんじょそこらの奴じゃ太刀打ち出来ないし代わりが務まるわけもない。最強(凶)なんだからさ。無駄な努力をするあたりが可愛らしくもあるが、側杖を食わされる方はたまったもんじゃないよね。

先にも書いたが作中のある登場人物、今回の重要なキャラクターがあまりにも不憫なんだよ。もっと言えば読んでいて身につまされへこんでしまうほど。反対に前作のラストや本作の中盤辺りまでの展開にやきもきしていた人は、主人公二人の選択を「よしよし」と喜べてしまうだろうし。主人公側の視点でなら嬉しい展開なんだが、一歩引いてみると結構きつい。この作者が上手いのは、真相が明らかになる直前まで、読者が不憫な登場人物を好ましく思えないように描いていることだ。お前のような勘違い野郎はその生意気な鼻っ柱をへし折られればいい、くらいに。でもそこで「ああ、俺のことじゃん」と気付かされる。苦労しなくたって小市民の座は指定席で、不憫な登場人物と同じような失敗は何度も経験してきた昔の自分(若い読者なら正に現在の自分)を思い浮かべて。いやー本当に意地悪だよなあこの作者。それだけに読後感はとても微妙。いや十分楽しめるんだけどね。続編の『冬期限定』が早く読みたいなーと思うし。

未読の方はぜひ。この機会にシリーズ全巻そろえてみたり。ああ、でもとっつきやすいのは「古典部シリーズ」の方かもしれない。

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