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映画『あしたのジョー』 [映画感想‐邦画]

漫画やアニメの実写化と聞くだけで思わずフレーメン反応のような表情になりがちで、興味を持ちつつ結局は映画館に行かずじまい、レンタルでの視聴になりました(実際に見たのは去年のうちですが)。結論から書いてしまうとキャストも含めイメージを損なうことなく実写化できてたように思います。ですが単に上手くなぞっただけに留まった、という印象も同時にあるんです。熱くはなれなかったんですね、試合のシーンでさえ。

※なお今回はネタバレにあまり配慮してません。

あしたのジョー <Blu-ray>スタンダード・エディション

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  • 出版社/メーカー: 東宝
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今回の映画で描かれるのは力石戦をクライマックスに、一旦ドヤ街を離れたジョーが再び帰ってくるまで。その意味ではテレビ版を再編集し劇場版として1980年に公開されたアニメ版『あしたのジョー』一作目とほぼ同じですね。どの場面を残しあるいは削ったのか比較するのも面白いかな、と劇場版アニメを見直そうかと思ったんですが150分もあるので止めました。興味がある方は見比べてみてください。

あしたのジョー 劇場版〔Blu-ray〕

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  • 出版社/メーカー: ラインコミュニケーションズ
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では本題に。先ずはキャスト関連から。プロボクサー顔負けなトレーニングを積みきっちり体を作って臨んだジョー役の山下智久、力石役の伊勢谷友介の二人には素直に感服します。大したもんだ。熱くなれなかったと書いた試合のシーンですが、二人を中心にカメラがぐるぐる回りながらボディを叩き合うとこは「お、良いじゃないか」と思いましたしね。でもジョーのクロスカウンターや力石戦での決まり手となるアッパーのシーンは間が抜けた感すらありお世辞にも良いとは言えません。他にも試合シーンはありますが尺を取ってじっくり見せる(つまり見せ場の)試合に限ってビミョーになる。これには理由があって、決めのパンチを繰り出す、あるいは相手に当たるインパクトの瞬間などスローモーションを多用し過ぎているんですね。時にはCGも使って顔がゆがむ様を再現したり。アニメ版の表現を積極的に取り入れたのかもしれませんが、逆に間が抜けた印象に繋がってしまったように感じました。

キャストのことをもう少し。予告等を見て最も不安だった香川照之演じる丹下のおっちゃん、なにしろあのメイクですから安いコスプレショーになってたらどうしようとか考えてて。これが意外にも悪くなかったんです。それどころか主要キャスト中、最も拳闘が様になっていたという驚き(ご本人は熱狂的なボクシングファンでもあるそうで)。失礼なこと考えててすみませんでした。次に不安だったのが香里奈演じる白木葉子、これは懸念が当たってしまったかなーと。やはりイメージが違う気がします。そしてこの映画での最大の変更点がこの白木のお嬢さん絡みで、後述しますがそこを変える必要あったのかなーと最後まで納得がいきませんでした。

『あしたのジョー』は熱狂的に支持された伝説的な作品です。原作の完結が1973年、最終回まで描いたアニメ『あしたのジョー2』の完結が1981年。アニメの完結から数えても30年前の作品を今、わざわざ実写映画化するわけです。さらに予告では「この時代の若者にジョーはいるか?」というキャッチコピーまで使われていた。そこまで言うなら製作サイドには明確な意図なりメッセージがあるんだろうと。しかしですね、最後まで見終えても何を訴えたかったのか自分にはさっぱり見えてこなかったんですよ。丹下のおっちゃんにコスプレぎりぎりのメイクを施したくらいですから原作を忠実に再現しようとしたことは確かで、それは舞台を現代に置き換えるといった安易な変更をしなかったことでも明らかです。つまり原作同様、1960年代後半を舞台にしているんですが、現代の観客に訴えかける何かを込められないのなら見た目だけ器用に再現した時代劇でしかないでしょう。かつて同時代の若者を熱狂させたジョーたちの生き様を通して再び現代に切り込むことができないならノスタルジーに特化・偏重した『ALWAYS 三丁目の夕日』の方がまだマシです。

他に幾つか気になった点などを。一つは先にも書いた白木葉子に関する変更です。彼女は白木財閥のお嬢さまですが、この映画では彼女もまたドヤ街出身である(白木家には養女として迎えられた)となっています。つまり出自に関する部分が大きく変えられたわけですね。これね、変更する必要があったのかなーと。葉子に関するドラマを膨らませたかったのかもしれませんが、あまり上手く機能してなかったんです。さらに言えば、身分も気位も高い女と野性味溢れるアウトローな男との関係、これって梶原一騎作品の特色であり重要なモチーフだと思うんです。わざわざ変更するならもっと活かして欲しかったですね。

またこの映画で描かれるのは極めて狭い範囲なんですね。具体的には冒頭の少年院、丹下ジムを中心とした泪橋やドヤ街周辺、あとは試合会場(リングやロッカールーム)、せいぜいこの程度です。ジョーたちが生きた時代がどんなものだったかなんてさっぱり伝わりません。象徴的なのは丹下のおっちゃんがジョーに向かって“わしとお前とでこのなみだ橋を逆に渡り、あしたの栄光を目指して第一歩を踏み出したいと思う”と語る有名なシーンです。彼らが目指す栄光が、なみだ橋を逆に渡ったその先の景色が一切映し出されません。別にドヤ街とは正反対の街並みが「あしたの栄光」だと言うわけじゃないですし、当時の街並みを(たとえCGであっても)再現するのは大変だという事情も理解しますが、ここはやはりね、バーンと見せて欲しかったなーと。

おっさんの繰り言みたいな感想になりました。映像化に関してはアニメ版という優れた前例を知っているだけに点が辛くなったのは否めません。逆に原作もアニメ版も知らない若い人たちにこそ伝わるものがあるのかもしれないですね。

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映画『リアル鬼ごっこ2』 [映画感想‐邦画]

以前に観た第1作目が思いがけず楽しめたので2作目があるなら観てみようかと。最初に断わっておきますがこの映画は前作のラストを受ける形でスタートします。その意味ではまさに正統続編ですが、そのため第1作目のネタバレを避けられません。いずれ観ようかなーと考えてる方はこの点あらかじめご了承ください。

リアル鬼ごっこ2 [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
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自分と同じ「佐藤」の姓を持つ者が大勢いることを許せない独裁者が「放たれた刺客の追跡から一定期間を逃げ切れれば望みを何でも叶える。だが捕まれば当然ながら命は無い。」という御触れを出す。名付けて「リアル鬼ごっこ」だと。これが基本設定ですが…改めて書き出すと凄いなこれ。そもそも舞台となってるのはいったい何処なんだよ等々、無茶苦茶な話なわけです。第1作目ではこれをパラレルワールドでの出来事とし、主人公は観客である我々と同じ世界から迷い込んだ少年、と脚色していました。全てが解決した後、主人公は元の世界ではなく再び別の平行世界へ飛ばされます。そこでは独裁者に対し佐藤さんたちが武装蜂起していたのだった…というラストでした。

そんなわけで本作での主人公はレジスタンス組織の一員として鬼たちから付け狙われてます。しかし独裁者からすれば武装した反抗組織を潰そうとするのは当然で、それって「鬼ごっこ」なのかと。佐藤さんを無差別に狩る、狩られる側は武装など無い一般人という基本設定の良さも削がれてしまうじゃないかと。ご心配なく、主人公は冒頭で我々観客と同じ世界に飛んできます。鬼たちを引き連れて(えー)。ここからは二つの世界が交互に描かれていきます。

それぞれの世界には対称となる「もう一人の自分」がいる(どうやら主人公だけは特別で一人だけしか存在しません)。世界Aでは仲間だが世界Bでは初対面で主人公との関係性は微妙に異なっている。さらにはどちらかの世界で死亡するともう一方の世界でも似た状況で死亡する…といった平行世界もののお約束もあります。勘が良い人なら「おや?」と思ったかもしれません、独裁者にも「もう一人の自分」が存在するんじゃないのと。他にも主人公だけ平行世界を行き来できるのは何故か、といった点がストーリー上の肝となります(まあ大した話じゃないんですが)。

前作に比べ予算も増えたのか鬼の数も銃撃戦など派手な見せ場も多く、趣向を凝らしているんですがどうにもピリッとしないんですね。これならひたすら走り回ってた前作のシンプルな疾走感の方がずっと良い。特徴的だったのは追いかけてくる鬼と逃げる人物の距離です。手を伸ばせば襟首を掴めそうな近さなのに決して追いつかないという不自然さ。だから鬼が手を抜いてるようにしか見えなくて。役者さんたちは懸命に走らされてるのに緊迫感が無いんですね。これは前作よりはっきりと劣っていました。そしてオチというかラストの締めくくり方がまた、どうなのかなあこれと。ズバリ書くのは控えますが、好評ならパート3も…みたいな欲が出ちゃったのかもしれません。それも含め本当に続編って難しいなあと思いましたね。評価としては1作目>2作目です。

ここからは余談。Blu-rayでの視聴でしたが元々の画質が悪いのか、正直なところあまり綺麗には見えなかった。動きの激しいシーンや暗めの場所ではノイズや若干つぶれ気味になってました。いわゆるビデオ撮りの限界なのかしら。他には音響も。これは自分の視聴環境が影響してるのかもしれませんがバランスが悪くて。音量を人物の通常会話に合わせると叫び声や効果音が大きすぎ、逆にすると会話が聞き取れない。テレビ番組とCMとの音量差みたいな感じです。

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映画『SPACE BATTLESHIP ヤマト』 [映画感想‐邦画]

これも劇場公開時に見逃してしまったので遅まきながら。
公式はここ⇒ SPACE BATTLESHIP ヤマト 公式WEBサイト

地球は謎の異星人ガミラスの襲撃により放射能に覆われ滅亡の危機に。人類最後の希望、宇宙戦艦ヤマトは遥か14万8千光年の彼方、イスカンダルへ放射能除去装置を求め旅立つ…という基本ストーリーは原作であるアニメ版と共通です(大胆に脚色された部分もありますが)。この映画が公開されたのは2010年12月です。その数か月後に起こった出来事を考えると複雑な気持ちになりますね。

SPACE BATTLESHIP ヤマト スタンダード・エディション 【DVD】

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  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
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結論から先に書いてしまうと「予想以上に良いところもあったが、予想以上に残念なところがそれを台無しにしてしまった『宇宙戦艦ヤマト』とは似て非なるもの」…という感じです。この映画を『ヤマト』の最新作として見るか、あくまで独立したSF映画として見るかでも評価は分かれますが。実はこの映画、第1作目の『宇宙戦艦ヤマト』だけでなく続編である『さらば宇宙戦艦ヤマト』の要素も取り入れた、いわばニコイチ映画でもあるんです。別にそれは構わないんですがちょっと安易にも感じて。それこそ見せ場の数珠繋ぎ、クライマックスにおける畳みかけも凄かった『さらば宇宙戦艦ヤマト』の熱さには残念ながら及んでませんし。

※以下くどくどと述べますが長いので畳みます。

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映画『BALLAD 名もなき恋のうた』 [映画感想‐邦画]

レンタルで視聴、この作品のオリジナルである『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』が好きな作品ということもあり、どうしても先入観を拭えず公開当時には観に行くことができなかった。で、観終えて思ったのはアニメの実写リメイクとしては大健闘だったかなと。
※参考までに以前書いた感想⇒ 映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』

BALLAD 名もなき恋のうた [Blu-ray]

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アニメ版の感想でも書いたが、原案に相当する『アッパレ!戦国大合戦』はとても良く出来た映画ではあるが「クレヨンしんちゃん」という枠組みの中でこそ成立しており、その要素を欠き観客との間にあった「しんちゃんや野原一家だからここまで(の無茶)はOK」という約束事が通用しない中で、オリジナル脚本と大筋を変えないまま果たして成立するんだろうか、という不安。これはやはり悪い形で出てしまったようだ。

※またしても長くなったので畳みます。

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映画『HINOKIO ヒノキオ』 [映画感想‐邦画]

夏休みの時季なので再視聴。主演は本郷奏多、多部未華子と今をときめく若手俳優の初々しい姿が拝めます。感想としては数年前に観た時点と変わりはないので、初鑑賞時、某所に書いたものをそのまま載せちゃおうかと。はい、手抜きです、すみません。

ヒノキオ [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 松竹
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率直な感想は「惜しい、もったいない」の一言に尽きるか。絶えて久しいジュブナイルSFの佳作に成り得たかも知れない作品なのに。もっともこれは大人になった自分の感傷的なフィルターを通した評価であって、この映画のメインターゲット(だと思うが)の小・中学生くらいの子供達が観た感想はどんなものか、むしろそちらに興味がある。自分はこの決して整っていない不器用な映画と、その可能性がとても好きだけど。

VFX畑出身の監督が主要なポストを全て賄う、ある意味ワンマンな映画ってパターンが日本でも増えた。これもそんな一本だ。監督本人が長年温めていた企画だそうだがオリジナルの構想のまま撮られていたらどうなっていただろう。脚本としてもう二人の名前がクレジットされているが整合性もまとまりの無さもそれが原因だろうか。この映画の最大の失敗は脚本の拙さだと思うから。

辛い経験から外界との接触を拒否する少年に与えられた一体のロボット・ヒノキオ、この造形がとても素晴らしい。実物大の模型とCGの併用だろうけど画面上の違和感は全く無い。とても自然に溶け込んでいる。逆にヒロインを演じた多部未華子(当時14~15歳か)のプロポーションが良すぎて、彼女のランドセル姿の方が違和感あったくらい。それほどの説得力を持たせることに成功しておきながらどうして制作者側が最後までヒノキオ自身が持つ力を信じることが出来なかったのか。先に書いた「脚本の拙さ」はそんなところにも特徴的だった。

========【※以下、少々ネタバレ気味です】========

劇中に登場するオンラインゲームは蛇足にしかなっておらず(主人公は途中でプレイを止めているし彼にはヒノキオという究極の「体感ゲーム」があるじゃないか)映画に全く貢献していない。「ゲーム内と現実とが関連する」としても、それは子供達の中での都市伝説みたいなものであり、あくまで偶然の一致とするべきじゃなかったか。ましてやそれをクライマックスの解決策として持ち出すなんて反則技だ。主人公が再び外へと一歩を踏み出す勇気も決意も、彼と外界とを繋ぐ唯一無二のインターフェイスであるヒノキオを通じてこそ成されるべきだったのに。感動的に「奇蹟」を見せられてもシラケるばかりだった。物語ってやつを舐めていないか?とすら感じたほどだ。

主要キャストの子役たちはみんな良かったと思う。キャラクター設定自体の拙さを補っていたし。残念なのは父親役の中村雅俊だ。正直ミスキャストだと思う。かつて雑誌のアンケートなどで「理想の父親 第一位」に選ばれたこともある彼のイメージに期待したんだろうが、この映画には相応しくない。

余談というか無い物ねだり。この映画はいつの時代が舞台かあえて明確にしていない。だがヒノキオの技術的成熟度を見る限りかなり未来の話だろう。でもなんだか妙にアナクロな描写が多いんだ。転入生を仲間に迎える通過儀礼も「昭和のドラマか」という感じだしなぁ。クラスメートも通行人もヒノキオを自然に受け入れてしまえるほど当たり前になっている、そんな未来像をちょっとでも垣間見せて欲しかった。

この路線が今後も発展していって欲しいと本当に思う。逆にこんな映画がもう制作できないような、そんな厳しく寂しい状況に邦画が陥っているならとても残念だ。

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タグ:映画 HINOKIO

映画『容疑者Xの献身』 [映画感想‐邦画]

レンタルで視聴。あまり期待していなかったんだが思ったより楽しめた。

容疑者Xの献身 スタンダード・エディション [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
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原作も読んだしスタッフ・キャストが同じTVドラマも見ていたが、どうにも踏ん切りがつかずレンタル店の棚に並んでからも手を伸ばせなかった。理由は二つ。直木賞まで受賞した原作に自分はさほど高い点を付けていなかったこと。また好評であり自分もそこそこ楽しんだTVドラマが回を追うごとに失速し、最終回では「そりゃねーだろ」という残念な結果に終わったからだ。しかし先入観というのはどんな場合も良くないのだなと再認識した。TVドラマから入った、特に自分の母親のように「福山さん格好良いよね」というミーハー丸出しな観客も、それよりはずっと厳しい見方をするだろう原作ファンも、この出来なら満足しつつ映画館を後にしたんじゃないか。

前半は少しもたつく。特にバッサリ削ってしまえばよかったのにと感じたのはドラマのファンへの目配せ部分だ。重要な役どころではない渡辺いっけい、品川祐などは無理に出すことはない。友情出演枠のリリー・フランキーとかもっといらない(まあそれを言い始めると柴崎コウも、となってしまうが)。ファンサービスも大変だ。しかしそれでもこの映画がドラマの2時間スペシャル以上のものとなったのは堤真一の功績か。難しい人物像を好演していた。欲を言えばもう少し華の無い役者さんが良かったが。多くの人が指摘するように頭脳明晰にして容姿端麗な探偵ガリレオの対照となるためには堤真一では二枚目過ぎるのだな。無理に冴えない中年男を演じるからやや役を作りすぎな印象になる。無いものねだりかなこれは。

男性と女性では見るポイントが異なる映画だなとも思う。『容疑者Xの献身』に用いられるキーワードは「純愛」らしい。献身的で見返りを求めないことを指して「純愛」というならまあそうなんだろう。でも男女間の愛ではないよな。むしろ絶望から救済してくれたものへの殉教に近い気すらした。それだけに悩ましい部分もある(これ以降少々ネタバレかもしれません、念のため)。

悩ましいのは構成上あの母娘の日常を描くことが制限されてしまうことだ。慎ましやかな彼女たちの幸せを守ることこそが殉教者たる容疑者X氏の動機そのもので、それはミステリであるこの映画の肝に当たる。さじ加減を誤れば謎解きどころではなくなる危険もあるから大変難しいけれど。せめて事件発生以前に彼女たちが、そして容疑者X氏がどんな暮らしぶりだったかをもう少し見せてくれていたら(先に書いたファンサービスの部分を削ってでも)。容疑者X氏の絶望が如何ほどだったか描く尺が無いなら、せめてX氏が守ろうとしたものが何だったのかを事前に見せておくべきだった。クライマックスの謎解きパートにおける短い回想だけではやはり弱いと思う。語り過ぎるのもマイナスだとは理解するが。

自分としてはそんな「純愛」とやらより「天才の孤独」に興味が向いた。湯川先生が容疑者X氏から「自分には友達なんかいない」と言われた時の心境。唯一対等に渡り合え刺激を与えてもくれる存在を失うこと。それに図らずも加担してしまったこと。彼はまた独りになってしまった。そんな湯川先生がブラック・ジャックと重なってしまうんだな。ブラック・ジャックも天才ゆえに孤独だったが彼にはピノコがいた。では湯川先生には? あの女刑事は探偵ガリレオにとってのピノコになってくれるのかしら。

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映画『神様のパズル』 [映画感想‐邦画]

レンタルで視聴、これが意外にも(というのは失礼だが)面白かった。134分と長めだがダレなかったし。
例によってFlash使いまくりで激重だけど一応⇒【映画『神様のパズル』公式サイト

神様のパズル [DVD]

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
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落ちこぼれロッカーと天才少女が宇宙創生に挑むという第3回小松左京賞を受賞した機本伸司の同名小説が原作。ただし映画化に際して当然ながら脚色されてるそうです。一番の変更点は主人公に関する点で、単一の人物が双子(の兄)に、学生とはいえ物理学を専攻する「理系」の人であったのが、物理学なんてまともに学んだことのないずぶの素人、しかも「体育会系」の人になっている。大抵の観客が置いてけぼりになりかねない物理学の理論とか分かりやすく且つ面白く見せてくれて大変ありがたかった。

やはり気になるのはクライマックスの展開とラストの締めくくり方かな。特に主人公の彼ね。ロックミュージシャン目指してたんじゃなかったのか。寿司屋にさほど思い入れがあるようには見えなかったんだがな。あとはヒロインに寿司を食べさせる場面か。どしゃ降りの雨の中じゃ原形とどめてないだろというツッコミは野暮だからしない。だが途中でせめて一度でも彼の握った寿司を食べるシーンが欲しかったな。彼女の部屋に何度も訪れているんだから差し入れするとかさ。アインシュタインの逸話がらみなのは分かるが二人には直接関係ないわけだし。彼の握った寿司をヒロインが食べる。その時は不味いと言わせてもいい。そして最後に彼女を思い止まらせるのは彼の寿司と。ラストも含め寿司で引っ張るならその方が収まりがいいと思うが。

以前から三池監督を評価している人ほどクライマックスの展開を容認しているみたいだ。それどころか「三池監督、普通の映画もちゃんと撮れるじゃん」みたいな。あまり熱心に三池監督作品を見てこなかった自分には分からない感覚だ。例えば料理をする際に具材や調味料も目分量でというやり方ならそれは別にかまわない。でもこの映画じゃクライマックス直前まできっちり作ってた印象なので、最後の仕上げという段になっていきなり鍋ごとひっくり返し「ちまちまやってられるか! 外に飯食いに行くぞ!」と言われたみたいでぽかーんとしてしまった。ここまで引っ張っておいてそれかよと。勢いでぶっちぎるのも嫌いじゃないがびっくりはしたな。

主演の二人はとても魅力的だった。市原隼人は愛すべきバカを生き生きと演じていた。もともと二枚目よりも三枚目路線の人なのかな。谷村美月が演じるヒロインはシニカルで一人称が「ボク」な引きこもりの天才少女というアニメや漫画のようなベタさ(ボクっ娘だよ、すごいなしかし)。一歩間違えばだだすべりになりそうなところをぎりぎりで踏みとどまらせていた。ボンクラ男子にとって目の毒な無頓着ゆえのお色気も見せてくれて嬉しいかぎり。周りを固める役者さんたちも良かった(國村隼、笹野高史、遠藤憲一らのおっさん達が特に)。

神様のパズル (ハルキ文庫)

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  • 作者: 機本 伸司
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫

ちなみにこれが原作。たしかにイラストに描かれた男の子は全然タイプが違うな。興味がわいたのでいずれ読んでみようと思う。

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映画『リアル鬼ごっこ』 [映画感想‐邦画]

レンタルでの視聴、怖いもの見たさで借りてみたが想像していたよりも酷くはなかった。2007年制作(日本・98分)、公開は2008年、監督・脚本:柴田一成、原作:山田悠介(『リアル鬼ごっこ』)、出演:石田卓也、谷村美月、大東俊介、松本莉緒、吹越満、柄本明ほか。制作費は1億円とのこと(広告費用等を除いた純制作費は知らない)。今どきの邦画の水準としては標準的なのかな、極端に安っぽくはなかった。同名の原作小説は2001年に自費出版で、2004年には改定版の文庫も刊行されたようだ。自分は未読だがベストセラーと言っていいんだろう。

リアル鬼ごっこ スタンダード・エディション [DVD]

リアル鬼ごっこ スタンダード・エディション [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD

何しろその内容(メインプロットや文章自体)がおよそあり得ない酷さ、と妙な評判を呼んだ小説の映画化だ、さすがにそのままでは難しかったのか基本設定だけを残してほぼオリジナルな内容になっているそうだ。自分は未読なので単純な比較は出来ないけど、小説も読んだ人からは概ね好意的に受け止められたと聞く(どれだけ酷かったんだ原作は)。オムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』の一篇と言われれば納得してしまいそうな内容だった。

パラレルワールドというSF的な設定を安直と取るかは人それぞれだが、映画のオチにも絡めてあって決して悪くはない。作中で行われる命がけの鬼ごっこの期間は一週間だが、主人公が平行世界に飛ばされ強制的に参加させられるのは5日目からとしたのも上手いと思う。捕まれば死ぬ、だから文字どおり死に物狂いで逃げる。ルールでは乗り物を使うと無条件に死刑らしくひたすら走る、追う方も逃げる方も。この単純な身体アクションが面白かった。鬼は対象を捕捉するGPS機能を装備していてその描写がまんま『ターミネーター』なんだよね。え、いまさら? と思わなくもないが追われる→逃げる(命がけ)という構造が同じだものな。

終盤に差し掛かってオチに向かう辺りから映画自体が失速してしまうのは残念だった。ひたすら走っていたあの疾走感のままエンディングまで行けば良かったのに。ラストシーンのくだりも蛇足に思えてしまったし。こういうのが好きなんだろうな、というのはよく分かるんだけど。あとは画面がね、ビデオ撮りの限界なのかもしれないが、暗いところはつぶれ明るいところ(特に衣装や壁などの白)は飛んでしまう。自分は家のモニタで見たが映画館のスクリーンではどうだったのかな。

主役を演じた石田卓也、どこかで聞いた声だと思ったら『時をかける少女』の千昭役だったのか...と思ったら妹役の谷村美月もそうだった。友人役の大東俊介も悪くない、モデルさんでもあるのか、さすがイケメン。でも柄本明はなあ、怪演ではあるんだが別の俳優さんの方が良かったんじゃないか。細かい部分には突っ込み放題な映画だけど意外なほど楽しめた。

【2011/09/04 18:33追記】『リアル鬼ごっこ2』の感想も書きました。
http://chokusin.blog.so-net.ne.jp/20110904

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映画『HERO』 [映画感想‐邦画]

HERO 特別限定版(3枚組) [DVD]

先日、新春映画スペシャルとして放送された際に録画しておいたものを視聴した。ノーカット放送だったのかは分からない。2007年制作・公開(130分)、監督は鈴木雅之、脚本は福田靖、出演は木村拓哉、松たか子、松本幸四郎ほか。2001年に放送されたTVシリーズは全話視聴率30%以上という嘘みたいな記録を持っているそうだ。そしてこの映画版も2007年度の邦画興行収入第1位(歴代では11位)を記録するヒットとなった。公開当時もレンタル開始以降も迷った挙句に観なかった作品だ。その意味では今回の放送はいい機会だった。

公開当時から多くの人が指摘しているとおりドラマの豪華版といった趣で、そもそも映画と言うのが妥当なのかも分からない。TV放映で見たためかもしれないが、おそらく映画館で観ていたとしても同じ印象を持ったと思う。ストーリーも2006年に放送された特別編からの続きだし、それに限らず人物相関などもドラマ版を視聴していることが大前提であり、見ていない人には意味が通らない箇所がたくさんある(中井貴一や綾瀬はるかの役どころなんて映画だけ見た人にはさっぱりだし)。いわば「一見さんお断り」な作品だ。まあこれは今に始まった話ではない。人気が出るとTVシリーズ→特別編→映画と続き、更にそれぞれがDVD等のソフト化も行われるという典型的なビジネスモデルだ。『踊る大捜査線』シリーズもそうだったしフジテレビにとっては手馴れたものだろう。

韓国ロケのパートは何だったんだろう。韓流ブームなんてとっくに下火になっていたはずだし。中古自動車の不正輸出先として韓国は一般的なのかね。クライマックスの法廷シーンも「そりゃねーだろ」と見ている内にどんどん気持ちが冷めていく酷さだった。傷害事件の公判を実際に傍聴したことはないが、少なくともこの映画で描かれたような場面には100回通いつめたとしても出くわさないと思うぞ。型破りな検事を主人公にした荒唐無稽なドラマとはいえ、ぎりぎり観客を繋ぎ止めておくには外しちゃいけないことがあるでしょ。システムが違うとはいえ、ハリウッドの法廷物を見て目の肥えた観客には茶番にしか見えないんじゃないか。それから松本幸四郎演じるヤメ検弁護士が拍子抜けだった。最強の敵として主人公の前に立ちふさがる役どころでしょ? 法廷での二人の闘いが最大の見せ場にならなきゃいけないのに敵役としてまったく機能していない。だからドラマも盛り上がらない。「久利生公平、最大の危機。」というキャッチコピーが泣くぞ。さらに事件の鍵を握る証人である現役代議士役として森田一義(タモリ)ってのは完全にミスキャストだ(特別編からの繋がりで仕方がないけれど)。こっちを松本幸四郎でキャスティングすればいいのに。

話は変わるが。宮崎駿は『カリオストロの城』を制作した際に「ルパン三世をまったく知らないどこかのおっさんが、偶然ふらっと映画館に入って観たとしても、ちゃんと分かるような映画にしようと思った」という趣旨の発言をしていた(ここでは宮崎ルパンの是非は問わない)。だからこそ今でも名作として評価されているし、逆に公開当時、TVシリーズを見ていたルパンファンには受け入れられず興行的には失敗した。難しいところではあるが、今後もTVドラマの映画化ってのが既定路線であり、同じような制作方法がとられ続けるなら何一つ期待はできない。見ている間、映画の内容とは関係ないことばかり考えてしまった。

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タグ:映画 HERO
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