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映画『SPACE BATTLESHIP ヤマト』 [映画感想‐邦画]

これも劇場公開時に見逃してしまったので遅まきながら。
公式はここ⇒ SPACE BATTLESHIP ヤマト 公式WEBサイト

地球は謎の異星人ガミラスの襲撃により放射能に覆われ滅亡の危機に。人類最後の希望、宇宙戦艦ヤマトは遥か14万8千光年の彼方、イスカンダルへ放射能除去装置を求め旅立つ…という基本ストーリーは原作であるアニメ版と共通です(大胆に脚色された部分もありますが)。この映画が公開されたのは2010年12月です。その数か月後に起こった出来事を考えると複雑な気持ちになりますね。

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  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
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結論から先に書いてしまうと「予想以上に良いところもあったが、予想以上に残念なところがそれを台無しにしてしまった『宇宙戦艦ヤマト』とは似て非なるもの」…という感じです。この映画を『ヤマト』の最新作として見るか、あくまで独立したSF映画として見るかでも評価は分かれますが。実はこの映画、第1作目の『宇宙戦艦ヤマト』だけでなく続編である『さらば宇宙戦艦ヤマト』の要素も取り入れた、いわばニコイチ映画でもあるんです。別にそれは構わないんですがちょっと安易にも感じて。それこそ見せ場の数珠繋ぎ、クライマックスにおける畳みかけも凄かった『さらば宇宙戦艦ヤマト』の熱さには残念ながら及んでませんし。

※以下くどくどと述べますが長いので畳みます。

これを書くのはどうかなと迷いましたが、やっぱり書きます。『ヤマト』として(主にストーリー面を)見るとニコイチですが、ヴィジュアル面ではニコイチどころか「キメラ」です。既に多くの方が指摘されてますが『GALACTICA/ギャラクティカ(2004)』や『スター・トレック(2009)』、他にも『エイリアン2』や『スターシップ・トゥルーパーズ』等の影響を強く感じました。海外の先行作品に刺激を受け「すげー、かっこいい!俺もこんなのやってみたい!」というのが基本的な出発点なんでしょう。山崎貴監督ってこんなアプローチばかりな印象はありますね。もともと特撮畑の人ですからヴィジュアル偏重になるのは仕方が無いのか。

それに関して特に否定しようとは思いません。これまでも、そしてこれからも表現というのは先例を踏襲し、あるいは吸収して進化していくものだから。海外の先行作品に伍するとまでは言いませんが、このジャンルの映画を日本でもこのレベルで作れるのだと示してくれた。そのことは素直に喜びたいです。だがそのために『ヤマト』という作品を踏み台にしていいのか、という疑問は残ります。もちろんかつてアニメの『ヤマト』に夢中になった人たちのノスタルジーを満足させよと言うつもりはありません。新たな魅力を備えた『ヤマト』を見せてくれるならば大歓迎ですし。でもそれが今回は無かった。観終えて真っ先に考えたのは監督と脚本家(ご夫婦なんですよね)の中に「ぼくの(わたしの)かんがえたヤマト」が果たしてちゃんとあったのかな、無かったんじゃないかな、ということでした。勝手な想像なんですけどね。

ここからは細かい部分を。特撮というかVFXは大健闘、完璧ではないが決して見劣りしないレベルだったと思います。ですがヤマトの描写には納得いかない。劇中で敵からの攻撃が命中する直前で横ロール→緊急回避、というシーンがあるんですが、まるで艦載機のブラックタイガーのようにひらりと避けるんですよ。ヤマトが。あのね、それなりに大きい艦なんですよヤマトは。そうでなくとも重量感を出すにはゆっくり目に動かすのは常套じゃないのかな。それが「ひらりと避ける」んですもの。そして波動砲撃ちすぎ。何かといえば「波動砲発射だ!」って主砲じゃないんだから。

肝心要のドラマ部分は壊滅的でした。特徴的なのは古代進と森雪の関係ですかね、酷いものでした。二人が惹かれあい互いを大切な存在と思うようになる、その過程がさっぱりなんです。仮にも主人公とヒロインですよ? 二人の関係はラストにも影響する部分なのに。他には古代と沖田艦長の確執(と和解)も酷い。「自分が助かるために部下を見殺しにするろくでなし」と恨んでいた人物が、実は優秀な指揮官であり人格者でもあると、そして跡を継ぐ形で古代は艦長代理となる、その過程がさっぱり描かれません。ついでに書くとキャスト陣は差が激しかった。元がアニメのキャラクターですから大変だったでしょうし、一部には雰囲気に合った役者さんもいたんですが。意外だったのは沖田艦長役の山崎努が下手糞に見えたことです。乗り気ではなかったのかなあと邪推したくなるほどに。そうそう、キムタクはいつもどおりでした。彼のスタイルでしょうから。

これはドラマ部分とは少し違いますが、見せ方が悪くて観客を戸惑わせる箇所が多い。上映時間の半分辺りで唐突に「おい見ろ、あれイスカンダルじゃないか?」、「本当だ、着いたぞー!」(歓声を上げるクルー達)・・・えーー? もう着いたの、早っ! 14万8千光年だよ? ワープだってまだ二回くらいしかしてないのに。折角ナレーション有りにしたんだから説明させればいいし、なんだったら『インディ・ジョーンズ』シリーズみたいに地図上に航路を示すやり方だってあるのに。ヤマトがどれほど大変な道のりを辿ったかなんて監督たちにはどうでもいいんでしょうね。

長々と書きましたが、やはり監督と脚本家に「ぼくの(わたしの)かんがえたヤマト」を見せつけてやるぜ!という熱さが足りなかった(ように思える)こと、これが一番残念でした。

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コメント 5

kotobukimaru

レビューありがとうございます。
見なくて正解、とわかってよかったです。
もっとも、キモタコ主演ってだけで端からアウトだったんですが(笑)
by kotobukimaru (2011-08-31 09:43) 

arkstar

現在の日本にオリジナルの脚本が書ける人が居ないって事だと思います。
TVドラマの安易な焼き直しや、漫画原作が溢れているのはその一端だと思いますし。
その上で、原作通りじゃシナリオが有名なので、一つ一つ否定のシナリオにしたって感じを受けます。

波動砲なんですが、伝家の宝刀のように起死回生の一撃扱いだったものを、
6連射とかされると何か有り難さが下がりますよねぇ。


by arkstar (2011-08-31 14:47) 

chokusin

>kotobukimaruさん
コメントとnice!をありがとうございます。
お役に立てた…のでしょうか(笑) キムタクはもうあのスタイルを変えられないんでしょうね。彼自身が「キムタク」を演じているセルフパロディのようでした。

この映画を観ると批判もあった『ハウルの動く城』において、宮崎監督がいかに彼をコントロールできていたか改めて分かりました(もちろん声だけの演技と事情は異なるんでしょうが)。

>arkstarさん
コメントとnice!をありがとうございます。

ああ、6連射波動砲、アニメの「復活篇」でしたかね。さすがにこの映画では連射してませんでしたが、まったくありがたみが無くなっていました。

監督や脚本家を責めすぎるのも良くないんでしょうが、どうもこのお二人は撮りたい画が先にあって(それも影響を受けた作品から無邪気に引用するんです)、しかしオリジナル企画は通りづらい、じゃあ何か適当な題材はないか探す。こんな発想でしか映画を作っていない気がします。これではほぼ辻褄合わせにしかなりませんよね。

ミナモさん、xml_xslさん、takaoさん、nice!をありがとうございます。
まとめてのお礼ですみません。
by chokusin (2011-08-31 22:00) 

cherryh

劇場で観ました。
正直、糞味噌にけなすほどひどくはないと感じましたが、古代と森雪のロマンスは、どうにも違和感がぬぐえませんでした。
キャストについては、原作とは大きく違う佐渡先生が、意外とはまっていた気がしました。どうせ、原作にとことん忠実に、なんて無理なんだから、思い切って再解釈してリメイクした方がいいものができたかもしれませんね。
見所?もいけてないところもchokusinさんが書いている通りで、観て損したとは思いませんが、人に薦めたいとは思えない作品でした。
by cherryh (2011-08-31 23:17) 

chokusin

>cherryhさん
コメントとnice!をありがとうございます。
ああ、佐渡先生ですね。ヤマトの乗員たちにとって沖田が親父なら彼女はお袋だとはっきりキャラ付けして欲しかったですね。もしくは高島礼子をキャスティングしたんだから、古代たちをドスの利いた声で叱り飛ばす姉御でも良かった。

>思い切って再解釈してリメイクした方が
おっしゃるとおりです。アニメ版にあったシーンを再現してファンへの目配せを済ませた気になるくらいなら、いっそ「ぼくの(わたしの)かんがえたヤマト」全開で良かったと思います。きっと誰も文句は言わないんじゃないかと。
by chokusin (2011-09-01 00:11) 

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