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森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』 [本‐小説]

今更ながらの読了。単行本が出た際に気になりつつもスルーしたのは我ながらアホだった。楽しい本でした。

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/12/25
  • メディア: 文庫

こんな公式の特集ページが作られているくらいなので不要かもしれないが一応あらすじ。

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。

長編かと思っていたが連作短編だった。四季に合わせた四編からなるちょっと変わった恋愛ファンタジー。山本周五郎賞受賞(第20回)、本屋大賞(2007年)第2位、受賞は逃したが第137回直木賞候補にもなったそうな。へえ、すげえな。だが自分が手に取る決め手になったのはSFマガジン編集部編『SFが読みたい!2008年版』でベストSF2007国内篇で第12位に選出されていたからだ。なぜにSF?、と興味が湧いた次第(SFの定義ってなんなの?とは思うが)。それもあって読む前にちょっと構えてしまったのも事実。

そんな懸念は読み始めれば無用だったとすぐに分かった。独特の文体というか言葉使いは少々人を選ぶかなと思わなくもないが。持って回った饒舌さはいわゆるライトノベルの特徴としてしばしば挙げられるし、自分はそれが正直なところ苦手だ。だが不思議なことにこの本に関しては逆に楽しんでしまった。実際に声を出して笑った箇所も結構あったし。じゃあその違いは何かと問われても上手く説明出来ないが(ライトノベルに対する個人的な偏見が多分に入っているかもしれない、この点は自省しなければ)。

ヒロインである「黒髪の乙女」のキュートさはもちろんだが、やはり自分は男として「先輩」を応援してしまう。特に“ロマンチック・エンジン”を暴走させる姿には共感せざるを得ない。四編のうち好きなエピソードは学園祭を舞台にドタバタを繰り広げる第三章かな。「先輩」も格好良い活躍を見せるし。ゲリラ演劇の「偏屈王」は自分も観たくなったよ。はちゃめちゃなラブコメであり純な恋愛小説でもあり、最後はちゃんとハッピーエンドで締めくくられるので満足。文句がある奴には漏れなく“おともだちパンチ”を。

ここから蛇足。ラブコメとかあるいは萌えとか、別に若い人の独壇場ではないはずだ。少年には少年の、青年には青年の萌えがあるように、壮年や老年にだって萌えはあっていい。いい歳ぶっこいたおっさんが堂々と萌え転がれるラブコメがあってもいいと思うんだ。『夜は短し歩けよ乙女』の主人公たちは大学生だ。その意味では若者向けの小説なのかもしれないが、それでもこれを読んでいる間、自分はかなり楽しんでいた。同時に「おっさん向けの萌え」を待望する気持ちが強まった。おそらくそれはライトノベルだの一般文芸だのという垣根を越えたところから生まれてくるのかもしれないな。

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コメント 3

takao

夜は短し歩けよ乙女は大好きで、単行本も文庫本も持っています。ただ、表紙は単行本版の方が好きだったりしますが。

確かに、森見登美彦さんの文章って、いわゆるライトノベル的だと思うのですが、全然ライトノベルっぽくないところがいいのかなぁ、と思います。ライトノベル読みが一般小説に入るのに、最適な作家さんではないかと思っているくらいですし。この違い、何で出てくるのか私も不思議に思っています。文章が軽いのですが、軽すぎないところがいいのかなぁ、と思ったりしますが、なんで軽すぎないのかわからないですしw

本当に面白い作品ですよね。私ももう一度読み返したくなりました。
by takao (2009-12-09 22:56) 

chokusin

>takaoさん
もっと早く読んでおけばよかったと思えるほど楽しめました。
確かにライトノベル的な饒舌さがあるなと思うんですが、これが可笑しみに直結しているところが他のライトノベルと決定的に違うのかなと。自信ありませんが。
by chokusin (2009-12-10 01:10) 

chokusin

xml_xslさん、shinさん、tasuchanさん、アロンダイトさん、ほりけんさん、takaoさん、
どんべえさん、おどんとグリフスさん、nice!をありがとうございます。
まとめてのお礼ですみません。
by chokusin (2009-12-10 01:12) 

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