2010-05-26 Wed 三雲岳斗『少女ノイズ』 [本‐小説]
五編からなる連作ミステリ。カバーイラストからもっとラノベ的なものを想像していたが、良い意味で裏切られた。帯にもあった解説の有川浩による「ミステリ部分、ぶっちゃけどうでもいい。」という言葉は中らずと雖も遠からず(いささか偏ってはいるけど)。確かにミステリ要素のあるボーイ・ミーツ・ガールと読むのが正しいのかな。いずれにせよ面白く読めた。
欠落した記憶を抱え、殺人現場の写真に執着を持つ青年と、心を閉ざして、理想的な優等生を演じつづける孤独な少女。進学塾の屋上で出会った二人が見つめる恐ろしくも哀しい事件の真実とは何か? そして、少女のつけた巨大なヘッドフォンのコードは、どこにつながるのか?
冷徹なまでに美しい本格のロジックで解かれる最大の謎は、エンドロールのあとの二人の未来――。
この作者の本は初めてで、アニメ化もされた『アスラクライン』の人だということすら知らなかった。登場人物の造形はいわゆるラノベに多く見られるものかもしれないが、どちらかといえば硬質な文体が「ライトさ」をあまり意識させない。自分のような、ラノベに苦手意識や先入観を持つ読者にとっては逆にありがたくもあった。もっともラノベをさほど読み込んでいない奴の言うことだ、話半分で聞き流しておいてください。
解説で人気作家から「ぶっちゃけどうでもいい」とまで言われたミステリ部分だが、トリックにも無理はなく不自然さは特に感じない。ただ、いずれのエピソードも動機がかなり突飛には感じた。そういうこともあるかもね、と思えたのは最終エピソードくらいか。まあミステリに現実的なものを求めるのは野暮だし、実際に起きている事件の動機にだって「なにそれ」と言いたくなるものはあるけれど。また、いわゆるアームチェア・ディテクティブなのかとも思ったが、探偵役の少女は意外に行動的だった。明晰な頭脳と病的なまでの正義感、殺人者への憎悪を隠さず事件に対峙する彼女を作中では狩猟動物、美しい獣(おそらくネコ科だろう)になぞらえていたが、自分はむしろハヤブサやタカといった猛禽類をイメージした。ああでもな、それだとツンデレの「デレ」が難しいのかな。猛禽類には「デレ」のイメージは無いか。あるような気がするんだが。うーむ。
シリーズものとして続けることも可能な締めくくりだったが、引用したあらすじにもある「エンドロールのあとの二人の未来」に関してはやはり読者の想像に委ね、単発として終わらせる方がいいかもしれない。魅力的なキャラクターだけに悩ましいところだ。
これは完全な蛇足(というか素朴な疑問)。カバーイラストで一目瞭然だがヒロインの少女は無骨なまでに巨大なヘッドフォンを身に着けている。いわゆる美少女イラストには「ヘッドフォン少女」というジャンルがあって、イラスト集等も発売されるほど定着しているんだが、これって時期的にはどっちが先なんだろ。一定の支持・需要があったものが同時多発的に出てきたってことなのか。
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