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綾辻行人『Another』 [本‐小説]

作者の最新長編、ハードカバーで700ページ近い(原稿用紙なら千枚を超える)力作だ。ちなみに本編部分だけで数えると666ページなのだが・・・偶然だろうな。発行元の角川書店も専用ページまで用意する力の入れっぷり。自分としても久しぶりの綾辻作品だったがとても面白く読めた。

Another

Another

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/10/30
  • メディア: 単行本

かなりのボリュームをラストまで一気に読ませるリーダビリティに驚かされる。まさにページターナー。これまで綾辻作品に対して抱いていた面白いんだが少々読みづらいというイメージを払拭するほどで、語弊を承知で「綾辻版ライトノベル」と言いたくなるくらいだった。以下あらすじ。

その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた―――。

1998年、春。夜見山北中学に転向してきた榊原恒一(15歳)は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた!
この“世界”ではいったい、何が起こっているのか?
秘密を探るべく動きはじめた恒一を、さらなる謎と恐怖が待ち受ける・・・・・・。

ジャンル的にはオカルト・ホラーでもありミステリでもあり。以前からどちらのジャンルも手がけてきた作者なのでそのハイブリッドだと思えばいい。読了直後はホラー風味のミステリという印象が強かったんだが、ミステリとして考えると反則技スレスレの部分をホラー(あるいはオカルト)要素で補ってもいるので、やはりミステリ風味のホラーと思った方が色々と面倒がなさそう。まあ無理に分類する必要もないんだけれど、新本格ミステリの旗手と呼ばれた作者だけに、そちらの方向を期待すると納得できない人も出てくるか。上手い喩えではないが、現代が舞台でありながらアリバイトリックを成立させるためにタイムマシンを登場させ、なぜそんなものがあるのだとの問いに「あるんだからしょうがないじゃん」と答えられたら、ねえ。それをミステリとは認めない!という意見もあるだろうなあと。本編中の言葉を借りれば「超自然的自然現象」として割り切った方が幸せです。

とは言うものの、読み始めたら先が気になって止まらない。不穏な空気、不可思議な出来事、次第に明らかになる過去、いつしか引き込まれ気がつくとラストまで一気に・・・という感じ。これはネタばらしにはならないと思うので書いちゃうけど、本作は主人公である15歳の少年の一人称形式になってる。そして綾辻行人が得意とするのは叙述トリックだ。眉に唾しながら読むといいんじゃないか。作者からの挑戦でもあるし。もちろん作者の手練手管に翻弄されること自体を楽しむのもあり。同時にこれはいわゆるボーイ・ミーツ・ガール作品でもあり、その要素を楽しむこともできる。その意味では随分と欲張りな小説だ。

個人的に気になったことを少し。ヒロインに当たる少女の造形はあるアニメのキャラクターをどうしても連想させる。自分が死んでも代わりはいるとか言っちゃうあれです。それ以外にも共通する要素があって、以前に読んだ飛鳥部勝則の『堕天使拷問刑』を思い浮かべてしまった(両作品の名誉のためにも書いておくがまったく関連はないです、念のため)。もう一点は舞台をなぜ1998年に設定したのかということ。本作は2006年から2009年にかけて文芸誌『野生時代』に連載されたものだ。連載が始まった2006年に設定しても不思議はないのに。その辺りにも仕掛けを施してあるのかな、なんてことをちょっと考えた。そんな裏読みをしたくなる面白さがあるってことだけど。店頭で見ると本の分厚さに腰が引けてしまうかもしれないが、存分に楽しませてくれる作品なので興味があればぜひ。おすすめ。

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