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犬村小六『とある飛空士への追憶』 [本‐小説]

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い)

  • 作者: 犬村 小六
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2008/02/20
  • メディア: 文庫

いわゆるライトノベルは普段読まない。むしろ敬遠している方かもしれない。典型的な読まず嫌いなんだが。中には優れた物語もあるだろうし、それらに触れる機会をつまらない偏見で失してももったいない。かつてはソノラマ文庫や集英社文庫のコバルトシリーズなどをあたりまえに読んでいたしな。しかし何を選んだものか。巻数を重ねたシリーズものは今からではきついし、手始めに一冊で完結していて評判の良さそうなものを...と選んだのがこれ。

「美姫を守って単機敵中翔破、1万2千キロ。やれるかね?」レヴァーム皇国の傭兵飛空士シャルルは、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。次期皇妃ファナは「光芒五里に及ぶ」美しさの少女。そのファナと自分のごとき流れ者が、ふたりきりで海上翔破の旅に出る!? 圧倒的攻撃力の敵国戦闘機群がシャルルとファナのちいさな複座式水上偵察機サンタ・クルスに襲いかかる! 蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語。

読みやすいなと思う。ゆっくり読んでも一日あれば十分だし。架空の世界を舞台にしているが、それほど突飛な世界観ではないので入りやすい。登場人物も魅力的に書けている...んだが、少々類型的なキャラクター設計な気もする。当然その描写も同様だ。この辺りは好みの問題もあるけど。空戦シーンもふんだんに出てくるが、なかなかの迫力で楽しめた。ちなみに自分は『紅の豚』とか『ラスト エグザイル』、最近では『スカイ・クロラ』などをイメージの手助けにした。その意味でもライトノベルってアニメと親和性が高い読み物なのかもなあ。

安直な連想と言われそうだが、やはり『ローマの休日』が思い浮かぶ(こう書くとネタばらしになるのかな)。身分も立場も異なる、本来まったく接点のない二人が、ごく限られた期間を共に過ごし心を通わせていくおとぎ話でもあるから。ただ読んでいて少しだけ収まりの悪さを感じた点がある。特に飛空士の少年シャルルの、彼の行動や選択、そこに至る葛藤も含めた全てが、若者ゆえの潔癖さやストイックさによる分別なんだな。それが悪いと言うのじゃなく、気持ちの中にすとん、と落ちてきてくれないんだ、自分のようなくたびれたおっさんには。『ローマの休日』において新聞記者ジョーの選択や行動に不自然さを感じないのは、年齢を重ね相応の経験に裏打ちされたグレゴリー・ペックという役者の持つ説得力でもあった(出演当時、彼は30代後半だったけど)。おっさんにはその方が性に合うんだなあ。この小説が本来の読者層としている若い人たちには全く問題がないと思うけどね。

最後まで楽しく読めたし、特にラストシーンの美しさと切なさ、そしてさわやかな余韻は大変素晴らしかった。満足です。

※追記:劇場用長編アニメーションが2011年10月1日に公開されますね。
公式サイト⇒【映画『とある飛空士への追憶』オフィシャルサイト

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