2011-10-30 Sun 長沢樹『消失グラデーション』 [本‐小説]
第31回横溝正史ミステリ大賞の大賞受賞作とのこと。自分にとっても久しぶりの青春(学園)ミステリ。すっかりおっさん化したせいか相性が悪いジャンルだが楽しく読めた。
話題になっていたので手に取ったのだが、場所によっては入手しづらい状況になってるそうで。発行元の角川書店のサイトでも現在は[在庫無し]状態に。すごいですね。ちなみに同サイトでは冒頭14ページ分が「立ち読み」として公開されています。以下あらすじ。
私立藤野学院高校のバスケ部員椎名康は、ある日、少女が校舎の屋上から転落する場面に遭遇する。康は血を流し地面に横たわる少女を助けようとするが、少女は目の前から忽然と消えた。監視された空間で起こった目撃者不在の“少女消失”事件。複雑に絡み合う謎に、多感な若き探偵たちが挑む!
一読、大変読みやすいなあという印象です。文体にくせが無いのでさくさく読めます。舞台が高校ということもあり登場人物は結構多いんですが、キャラクターをしっかり立たせて書き分けも上手いなと感じました。ミステリとしての肝になるのは上に引いたあらすじどおり、ある少女の「消失」です。高校の敷地内という比較的ひらけた場所とはいえ、誰の目にも触れず姿をくらますことが困難な状況。なぜ、どのように、あるいは誰が、という謎の解明が行われていきます。密室からの人間消失のバリエーションと考えていいでしょう。
ところがですね、この部分はあまり重要ではなかったりするんですよ。もちろん大事な要素ではあるんですが。最大のトリックは小説そのものに仕掛けられています。クライマックスのある瞬間を境に大きく転換します(ネタばらしになってもまずいので詳述は避けますけど)。自分はすっかり騙されてしまい、「おお!そうだったのか」と驚きました。先にも書きましたが読みやすい文体につられてさくさく読み進め、まんまと作者の仕掛けに嵌められましたねえ(単純なやつ)。ミステリを読みなれている人、勘の鋭い人なら途中で「これはもしや・・・」と気付くかもしれないですが。
いくつか気になった点を。見事に騙された負け惜しみでもないんですが、仕掛けそのものがかなりトリッキーで作劇のためだけに用意した感がどうしても強かったこと。まあそれを言い出したらミステリの大半は読めなくなりますけどね。さらにある重要な役どころの人物の扱いに関してもちょっと。作者にはこの人物をメインに据えた別作品の構想があるのかもしれませんが、現時点で発表されていない以上、作者にとってのみ既知で愛着のあるキャラクターに過ぎず、読者からすればよく知らない(知りようもない)客演が大事なところを持っていったようにも見えてしまうんですよ。アンフェアとまではいきませんが「結局お前なんだったの?」とは感じましたね。
とはいえ、とても面白く読めましたので興味をもたれた方はぜひ。自分もこの作者の次回作を今から楽しみに待ちたいと思います。
これは面白そうですよね。
私は、ネットで購入できなかったので、本日紀伊國屋で購入して参りました。
とりあえず、今読んでいる本が終わってからだと思いますが、楽しみですw
by takao (2011-10-30 19:45)